2019年冬。
その頃の私は、朝、出勤前にお化粧をし、腰掛けた椅子から立ち上がるのもやっとだった。
「えいやっ」と気合いを入れないと立てなかった。
仕事に疲れきっていた。
責任ある仕事を任され、マネージャーという立場も与えられていたが、自分の心と体がそれについていかなかった。そもそもマネージャーをやれる器ではなかった。
プライドが高いので外面だけは良く、帰宅してから夫にあたることも多々あった(ごめんなさい)。
「こんな私、私じゃない。自分らしくない」と、毎朝通勤する車の中で思っていた。
そんな時、近所にある市の図書館で『捨てないパン屋』に出会った。
『捨てないパン屋』というタイトルに強烈に惹かれた。
衝撃的だった。
「はじめに」の部分ですぐに心を掴まれた。
このままのペースでがむしゃらに働いて、その先にゆとりのある豊かさを想像できますか?
『捨てないパン屋』
この問に、私の血肉が「NO!!!!!」と叫んでいた。
『捨てないパン屋』は働き方の本だった。
私の悩みに対するすべての答えがそこにあると思った。
よくテレビや雑誌で、成功者が「○○を見た時に私の人生が変わった」というよう話をすることがあるけど、あんな経験自分には関係ないとずっと思っていた。そんな衝撃的な経験って普通に生活していてあるわけがない、と。
でも、私にも起こってしまった。
それも歩いて1分の近所の図書館で。
ちょうど同じ頃、奈良県の曽爾村にある古民家を安く譲っていただけるという話が夫のところにあり、「なかしー(夫が私を呼ぶ時の呼び方)はパンが好きだから、今の仕事を辞めて、将来そこでパン屋をするのもいいんじゃないかな」という話を夫婦でしていたのだった。
もうこれは運命なのではないか。
すぐに著者である田村さんの店「ブーランジェリー・ドリアン」のカンパーニュを取り寄せた……。
あれから約2年半。
私は田村さんが校長をつとめる「ドリアン パンの学校」の1期生になった。
そして来週2日間、ドリアンに行って見学させてもらうことになっている。
私は今でも、2019年頃の自分を思い出すと泣けてくる。もう二度とあの頃には戻りたくない。
でもあの時があるから、今がある。
あの時『捨てないパン屋』に出会ったおかげで、働き方を見直したり、会社と交渉して休みを減らしたり(正社員から契約社員になった)できた。そして、以前よりずっと精神的にも時間的にも豊かな暮らしを送ることができるようになった。
私は『捨てないパン屋』で人生が変わったと思う。人生の輪郭がくっきりした。心も体もギリギリだったけど、田村さんに救っていただいた。
来週からの研修は、その感謝の気持ちを伝えながら、目一杯質問してこようと思う。
緊張して寝れるかが心配だな……。
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